本とモノ・コト・ヒトリゴト ☆ アラフォー仙人のんびり日記

☆ ほのぼの図書館 ☆ 住人 カジユアの日記です。本を読んでふと思い立つアレコレ。そんな瞬間が好きです。

月の砂漠を♪

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どうも。

ほのぼの図書館オーナー

カジユアです。

 

ほのぼの図書館らしい小説をご紹介。

 

『月の砂漠をさばさばと』 北村薫 新潮文庫

 

母と娘の日常を切り取った、12の短編集です。

互いに見守り、見守られる中で

ふと訪れる喜びと哀しみ。

その背景に流れる季節のようすも

巧みに、丹念に描写されています。

 

ただほのぼのしているだけではなく、

心に小さな波を起こしてくれる点が魅力。

ほのぼの感に安心していたら、ふいに

目頭にじわりときてしまい…。

 

9歳の女の子の無邪気な日常の中に

そこはかとなく流れていた寂寞が

ある時、噴出する。

 

例えば「猫が飼いたい」のラストシーン。

そこに向かうまで

じわじわと焦燥感がつのります。

 

直接、母に向かうわけではなく

9歳なりの無自覚的で必死な言動。

その切なさ。

乾燥した風が肌寒く、木々や雑草、土の匂いが

いたいたしく心に染みてきます。

 

だけど、この子はきっと自然に自立するだろうな。

豆料理の下ごしらえをしたり

食事の配膳をしたり

失敗しながらも

自分のことは自分でするように

過ごしている様子。

 

育児の目的は最終的には子供の自立のはずなのですが

カジユアはつい、何でもやってあげてしまいます。

少しずつ、何でもできるように

声掛けと見守りが大切なのかな。

 

丁寧に暮らす中で

一緒に生活上の作業をして

互いの心を育んでいく。

忘れがちな姿勢に

気付かされます。

 

 

          *****

 

夏になると、地にはお豆が実り、夜空にはさそり座が輝きます。

『月の砂漠をさばさばと』の「さそりの井戸」より

 

          *****

 

冒頭一文でわくわくする。

ささやかな母子の物語。

夏の夜にしんみりと

お母さんが話してくれる童話。

宮沢賢治とかね。

お母さんはさすが作家らしく

多くの童話を暗記している様子。

「読み聞かせ」ではなくて

「語り」だな。

最高のぜいたくだね。

 

夏の夜の、このシーンの挿し絵は

1ページ分使っていて、ぐっと身近に感じられる。

カジユアも聞いている気分になる。

 

さそりは哀しい生き物だなぁ。

いたちにおいかけられて井戸に落ちて死ぬときに

誰の役にも立たなかったなんて言って。

いたちに食べられれば良かったなんて思って。

 

カジユアは童話から離れていって

個人的に考える。

怖いものから逃げるのは

生き物すべての本能なんだよね。

きっと、何度恐怖に遭遇しても

条件反射で逃げるのだ。

そのことはたぶん、素晴らしい。

井戸に落ちるかもしれないけど

生まれ変わったらまた逃げて

今度こそは

自由をつかみとってほしい。

星座になんてならずにね。

 

自己犠牲が美しいなんて

もう古い。

これからの時代は

みんなで棟上げ式を祝う

みたいな、新しい

共有感覚が現実になるはずだ。

 

あ、

もちろん

宮沢賢治の作品は素晴らしいですよ。

カジユアもずいぶん昔から親しんできたし。

今でも小中学校で

劇になったりしています。

 

しかし、子どもたちが好んで

彼の作品群を手に取ることはもう

ほとんどありません。

 

読んであげると

響く子には響きます。

当然ね。

 

 

 

ちなみに、『月の砂漠を…』の作者は男性です。

リアルで繊細な生活感がこんなに分かるなんて。

すごいなぁ。